本を読む子は伸びる? — 読書の効果と「マンガは読書に入るか」を研究で考える

投稿日 2026-08-26 ・ 更新日 2026-08-26 ・ 約9分で読めます

「本を読む子は頭がいい」は、子育てでいちばん長く信じられてきた通説のひとつです。最近は半数近くの子どもが1日の読書時間「0分」と報告され、「せめてマンガでも読んでくれれば」と思う親も多いでしょう。では、読書は本当に学力や心の安定につながるのか。つながるとしたら、それはマンガでも同じなのか。数万人規模の追跡研究とメタ分析を手がかりに、「本を読む子は伸びる」の中身を分解していきます。

夕方のリビングのソファで、ひとりの子どもが図鑑を、もうひとりがマンガを読んでいて、そばに本の山があるイラスト

「読む子は伸びる」はどこまで確かか

読書と学力の関係については、ひとつひとつの研究ではなく、研究を束ねた分析から見るのがいちばん見通しがよくなります。モルとバス(Mol & Bus, 2011)は、乳児期から成人初期までを対象にした99本の研究をメタ分析し、「どれだけ活字に触れているか(print exposure)」と言葉の力の関係を調べました。

結果は一貫していました。活字に触れる量が多い子どもほど語彙が豊かで、読解の成績もよく、その関係は就学前から大学生まで、年齢が上がるほど強くなっていました。研究者はこれを「上向きの螺旋(upward spiral)」と呼びました。読めるから読む、読むからもっと読めるようになる、という循環です。

この循環の裏返しが、スタノヴィッチ(Stanovich, 1986)が名づけた「マタイ効果」です。新約聖書の「持てる者はさらに与えられ、持たざる者は持っているものまで奪われる」という一節にちなんで、読みが得意な子はたくさん読んでますます得意になり、苦手な子は読む機会が減ってますます差が開く、という現象を指します。読書量の差は、放っておくと学力の差に「積もる」方向に働く、というのが読書研究の基本的な見立てです。

ただし、ここまでの研究の多くは「読む量が多い子は成績もよい」という相関を示したものです。もともと言葉が得意な子が本を好きになるという逆の因果も、本が多い家庭の子は他の面でも恵まれているという第三の要因もありえます。そこで次に、同じ子どもを追いかけた研究を見てみます。

同じ子を追いかけるとどう見えるか

サリバンとブラウン(Sullivan & Brown, 2015)は、1970年にイギリスで生まれた約3,600人を追跡したデータを使い、10歳から16歳にかけての語彙と数学の伸びを調べました。楽しみのための読書をしていた子どもは、10歳時点の能力、親の学歴や職業、家庭の蔵書の量を統計的に揃えても、16歳までの語彙の伸びが大きく、数学の伸びとも弱いながら関連していました。興味深いのは、読書の効果の大きさが、親の学歴の効果を上回っていたことです。「家庭環境は変えられないが、読書は子ども自身が動かせる変数だ」というのが、この研究が引用されるときの読まれ方です。

日本でも、似た方向の追跡データがあります。ベネッセ教育総合研究所は、小学生向け電子書籍サービスの読書履歴と学力テストを1年4か月間ひもづけて分析しました(2018年)。その間に10冊以上読んだ子どもは4教科の偏差値が平均で1.9ポイント上がり、1冊も読まなかった子どもは0.7ポイント下がっていました。差がとくに大きかったのは算数で、そしてもともと学力が下位だった子どものほうが読書の効果が大きく出ていました(「多く読んだ群」と「読まない群」の差は、下位層で4.7ポイント、上位層で1.5ポイント)。

学力以外の面はどうでしょうか。マクとファンコート(Mak & Fancourt, 2020)は、イギリスの約9,000人の子どもを7歳から11歳まで追跡し、7歳の時点で毎日楽しみのための読書をしていた子と、性格や家庭環境が似ているのに読む頻度が低かった子を統計的にマッチングして比べました。毎日読んでいた子どもは、11歳の時点で多動・不注意の問題が少なく、思いやり行動(向社会的行動)が多く、情緒の問題も少ない傾向がありました。この結果は、7歳の時点ですでに多動・不注意の傾向があった子どもだけに絞っても再現されています。

さらに2023年には、アメリカの1万人超の子どもを対象にした大規模コホート(ABCD研究)から、幼い頃から楽しみのための読書を続けてきた子どもは、12歳前後の時点で認知テストの成績がよく、メンタルヘルスの問題が少なく、脳の一部の体積が大きいという報告も出ました(Sun et al., 2023)。この研究では週12時間前後で効果が頭打ちになっており、「多ければ多いほどよい」わけではないことも示唆されています。

ここまでを並べると、読書の効果は「語彙」にいちばんはっきり出て、読解や算数にも波及し、心の安定や行動面にもゆるやかにつながる、という像が見えてきます。ただし、どれも無作為化された実験ではありません。統計的に条件を揃えても、「本を読む子」と「読まない子」の違いをすべて消せるわけではないことは、頭に置いておく必要があります。

マンガは「読書」に入るのか

ここで多くの親が知りたいのは、「うちの子が読んでいるのはマンガばかりだが、それでもいいのか」でしょう。この問いには、研究からは2つの答えがあります。

ひとつめは、「読解力を伸ばすという意味では、本(とくに物語)のほうが効く」という答えです。トルッパら(Torppa et al., 2020)は、フィンランドの2,525人を小学1年生から中学3年生まで追跡し、本・雑誌・マンガ・デジタル媒体それぞれの読書量と、読みの流暢さ・読解力の関係を調べました。結果は、本(とくに物語)をよく読むようになると読解力が伸びる一方、雑誌やマンガのような短い読み物では同じ関係が見られず、デジタル媒体での読書は読解力とむしろ負の関係にありました。ジェリムとモス(Jerrim & Moss, 2019)も、35か国・25万人以上のPISAデータから、読書の種類のうち読解得点と結びついていたのは物語(フィクション)だけで、毎日フィクションを読む生徒は読まない生徒より約26点高かったと報告しています。マンガ・雑誌・新聞にはその関係が見られませんでした。

ふたつめは、「マンガは本への入り口になりうる」という答えです。ウジイエとクラッシェン(Ujiie & Krashen, 1996)は、アメリカの中学1年生の男子を対象に、マンガ(コミック)を読む頻度と読書習慣を調べました。マンガをよく読む子どもは、そうでない子どもより本も多く読み、読書をより楽しんでいました。マンガが読書を「置き換える」のではなく、マンガをよく読む子はほかの本も読んでいたのです。クラッシェンは、マンガが「読むこと自体が楽しい」という経験をつくり、より長い文章へ進む足場になりうると論じています。

日本の読書研究者である猪原敬介氏も、「マンガでも読書の効果は得られるか」という問いに、「得られうる。ただし読み手と作品による」と答えています。語彙の多い作品をじっくり読む子と、絵だけを追ってめくる子では、同じマンガでも得るものが違う。ジャンルの優劣より、その子がその作品から何を受け取っているかのほうが大事、という立場です。

つまり整理すると、こうなります。読解力そのものを伸ばす効率でいえば、本、とくに物語を読むことにはマンガにはない効果がある。しかし、読書の習慣がまだない子どもにとって、マンガは「読む楽しさ」を知る入り口になりうる。マンガを取り上げて本を渡しても読む子にはならない一方、マンガだけで満足していればよいわけでもない。「入り口として歓迎し、出口は本にも開けておく」というのが、研究から読み取れる現実的な落としどころです。

読書時間は減っている — 日本の現状

東京大学社会科学研究所とベネッセ教育総合研究所が2015年から約2万組の親子を追跡している調査では、1日の読書時間が「0分」の子どもの割合は、2015年の34.3%から2024年には52.7%へ、10年で1.5倍に増えました。小学1〜3年生でも3人に1人、4〜6年生では約半数が「0分」です。同じ調査では、読書時間が長い子どもほど語彙力の得点が高く、スマートフォンの使用時間と読書時間は逆相関で、「小4でスマホ時間が長いと小6の読書時間が短い」という関係も確認されています。

この数字は、「読書は大切」と言うだけでは子どもは読まない、という現実でもあります。マタイ効果の話を思い出すと、読まない子どもが増えることは、読む子どもとの差が開きやすくなることを意味します。だからこそ、読書を「強制する」のではなく、「読む楽しさに出会う確率を上げる」方向で環境を整えることが、親にできる現実的な手になります。

この研究をどう読むか

まず、ここで紹介した研究はほぼすべて観察研究です。統計的に条件を揃えても、読書の効果と、読書を好む子どもの特性を完全には切り分けられません。「本を読めば成績が上がる」という因果の断定は、研究からは出てきていません。ただ、複数の国で、異なるデータと方法で、同じ方向の結果が繰り返し出ていることは、それなりに重い事実です。

次に、「マンガか本か」の議論は、どの能力に注目するかで答えが変わります。読解力の伸びで見れば本が有利という結果が複数ありますが、読書への動機づけや楽しさで見ればマンガに役割があるという結果もあります。どちらか一方だけを引用して「マンガは無意味」「マンガも立派な読書」と言い切る記事には注意が必要です。

そして、読書の効果がいちばん大きかったのは、もともと読む習慣のなかった子ども、学力が下位だった子どもでした。読書は「すでによくできる子をさらに伸ばす」ものというより、「まだ読んでいない子が読み始めたときに効く」もののようです。「うちの子は本を読まない」と感じている家庭ほど、この研究結果は希望のある話として読めるのではないかと思います。

今日からできること

  • マンガは取り上げず、「隣」に本を置く。マンガをよく読む子はほかの本も読むというデータがあります。マンガの原作小説、同じテーマの図鑑やノンフィクションなど、興味の延長線上にある本を目につく場所に置いておきます。
  • 「何を読んだか」より「読んでいる時間があるか」を見る。読書時間0分の子どもが半数という現状では、まず毎日10分、好きなものを読む時間が確保されているかが出発点です。寝る前、朝ごはんの後など、決まった場面に紐づけると続きやすくなります。
  • 本は子どもに選ばせる。楽しみのための読書(reading for pleasure)の効果は「自分で選んで読む」ことが前提です。親が「ためになる本」を選ぶより、本人が読み切れた経験を積み重ねるほうが、次の1冊につながります。
  • 物語(フィクション)への入り口をひとつ用意する。読解力との結びつきがいちばん強いのは物語でした。図鑑やマンガが好きな子なら、その題材を扱った児童文学や物語を1冊だけ添えておきます。読まなければ無理強いしません。
  • 親が読んでいる姿を見せる。読書量と学力の関係を示した研究の多くは、家庭の読書環境を要因として挙げています。スマホを置いて本を開く時間が家の中にあることが、「本を読むのは当たり前」という前提をつくります。

参考にした研究

各研究について、日本語の解説記事と、原典(英語論文)を探せる Google Scholar 検索へのリンクを掲載しています。

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本記事は子育て世代向けの一般的な情報提供を目的としたものであり、診断・治療・個別の専門的助言を 提供するものではありません。お子さんの発達・健康・心理に関する個別の判断が必要な場合は、 小児科医・心療内科医・臨床心理士・学校・自治体の相談窓口など、専門機関にご相談ください。

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