登園・登校しぶり — 「行きたくない」にどう向き合うか
投稿日 2026-07-06 ・ 更新日 2026-07-06 ・ 約7分で読めます
朝になると「行きたくない」と泣いたり、お腹が痛いと訴えたりすることがあります。登園・登校しぶりは多くの家庭が経験する悩みで、その背景には分離不安や、避けることで不安が続きやすくなるしくみが関わることがあります。無理に押し切らず、かといって家庭だけで抱え込まずに、穏やかに支える関わり方を研究を手がかりに整理します。

「行きたくない」の背景にあるもの
朝になると登園・登校をいやがる、頭痛や腹痛を訴える、玄関で泣いてしがみつく。こうした登園・登校しぶりは、珍しいことではありません。米国児童青年精神医学会(AACAP)の家庭向け資料では、学校をいやがる気持ちは5〜7歳と11〜14歳に多く、小学校・中学校という新しい環境への移行期に現れやすいと説明されています。夏休みや病気あけなど、家庭で親と密に過ごした後に始まりやすいことも知られています。
幼い子のしぶりの背景には、分離不安が関わっていることがあります。生後8か月ごろから就学前にかけて、親と離れることに強い不安を示すのは健康な発達の一部だと、AACAPの資料は説明しています。多くの場合は成長とともにやわらぎますが、不安が強く長引き、登園・通学や友だちづくりといった日常を妨げるようになったときには、見守りに加えて支援を考えてよい段階です。
しぶりの背景は一つではありません。学校不適応・欠席行動を概観したKearney(2008、Clinical Psychology Review)は、登校をいやがる背景を、特定の恐怖や全般的な不安、苦手な対人場面からの回避、親の注目を得ること、家にいることで得られる安心や楽しみ、という複数の機能に整理しています。同じ「行きたくない」でも、何がその行動を支えているかは子どもによって異なります。だからこそ、まず背景を丁寧に見立てることが出発点になります。
避け続けることで不安が残りやすくなることがあります
不安なことから離れると、その瞬間は少し楽になります。これは自然な反応です。ただし、その状態が長く続くと、「実は大丈夫だった」と学び直す機会が減り、不安が残りやすくなることがあります。Hofmann と Hay(2018)は、回避が短期的には不安を下げる一方、長期的には不安を維持する場合があると整理しています。一度休むとますます行きづらくなる、という保護者の実感には、こうした学習のしくみが関わっていることがあります。
この流れを少しずつほぐす考え方が、段階的な暴露(エクスポージャー)です。怖いことをいきなり全部やるのではなく、不安の低いところから少しずつ慣れていきます。たとえば「制服に着替えてみる」「校門まで一緒に行く」「保健室で短時間過ごす」のように、踏める段を小さく刻みます。小さな成功を積み重ねるうちに、子どもは「行っても大丈夫だった」という経験を少しずつ蓄えていけます。
ここで大切なのは、休むことや避けることを一律に悪いものと決めつけないことです。Hofmann と Hay(2018)は、回避が役立つ局面もあると述べ、行動の背景にある機能を見て、バランスのとれた対応をとることの重要性を指摘しています。完全に休ませ続けると回避が固定されやすい一方、不安を無視した無理強いも逆効果になりえます。少しずつ近づき、できたところを認める。この往復のなかで、登園・登校との距離を縮めていきます。
つながりを残す支援と、相談したいサイン
登園・登校をめぐる関わりでは、つながりを完全には断たない工夫が助けになります。短時間だけ登校する、遅れて行く、付き添う、別室で過ごすなど、ハードルを下げた形で学校との接点を保つ方法があります。文部科学省「不登校児童生徒への支援の在り方について」(2019)も、支援のゴールを「登校という結果」だけに置くのではなく、子どもが自分の進路を考え、社会的に自立していくことに重きを置くよう求めています。登校はあくまで手段のひとつであり、急がせすぎないことも支援に含まれます。
ただし、しぶりの裏に深刻な原因が隠れていることもあります。いじめや教室での強いストレス、対人場面への恐怖、発達の特性に伴う困りごとなどがあると、慣らすことだけでは子どもの負担が大きくなる場合があります。Kearney(2008)が示すように、何がその回避を支えているかによって必要な対応は変わります。「ただ慣れれば解決する」と決めつけず、子どもの訴えに耳を傾け、背景を見極める姿勢が大切です。
不安が強く長く続き、生活に支障が出ているとき、あるいは背景にいじめや心身の不調が疑われるときは、家庭だけで抱え込まずに専門機関へつないでください。スクールカウンセラー、児童精神科、教育相談機関などが相談先になります。早めに手をつなぐことが、子どもと家族の負担をやわらげます。
今日からできること
- 「行きたくない」を否定せず、まず気持ちを言葉にして受けとめます。そのうえで、制服に着替える・校門まで行く・短時間だけ過ごすなど、踏めそうな小さな一歩を子どもと一緒に決めます。
- 完全に休ませきるより、付き添い・遅刻・別室登校など形を変えて学校とのつながりを細く保ち、できた日や場面をその都度ことばで認めます。
- 不安が強く長引く、生活に支障が出ている、いじめや体調不良が疑われるときは、家庭で抱え込まずスクールカウンセラーや児童精神科、教育相談機関に相談してください。
参考にした研究
各研究について、日本語の解説記事と、原典(英語論文)を探せる Google Scholar 検索へのリンクを掲載しています。
- AACAP(Facts for Families: 登校しぶりと分離不安の解説) / 原典を探す(Google Scholar)
- AACAP(Facts for Families: 子どもの不安と発達上の分離不安の解説) / 原典を探す(Google Scholar)
- 文部科学省, 2019(通知「不登校児童生徒への支援の在り方について」社会的自立を重視する支援方針) / 原典を探す(Google Scholar)
- Hofmann SG, Hay AC, 2018(Rethinking Avoidance: 回避が不安を維持する仕組みとバランスのとれた対応) / 原典を探す(Google Scholar)
- Kearney CA, 2008(Clinical Psychology Review: 学校欠席・登校しぶり行動の機能に関する総説) / 原典を探す(Google Scholar)
関連する用語解説
本記事は子育て世代向けの一般的な情報提供を目的としたものであり、診断・治療・個別の専門的助言を 提供するものではありません。お子さんの発達・健康・心理に関する個別の判断が必要な場合は、 小児科医・心療内科医・臨床心理士・学校・自治体の相談窓口など、専門機関にご相談ください。
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