からだと安全の教育 — 「プライベートゾーン」の伝え方

投稿日 2026-08-16 ・ 更新日 2026-08-16 ・ 約8分で読めます

からだの安全教育は、子どもをこわがらせるためのものではありません。Walsh らの2015年コクランレビューは、学校での予防教育が子どもの知識と「自分を守る行動」を高めることを示しています。プライベートゾーンの考え方、体の部位を正しい名前で呼ぶこと、「いやと言う・逃げる・話す」を、落ち着いた言葉で家庭に取り入れる方法を整理します。

保護者と子どもが、からだと安全について絵カードを見ながら話すイラスト

予防教育には効果がある — コクランレビューが示すこと

からだの安全について子どもに教えることは、不安を植えつける行為だと感じる保護者は少なくありません。けれども研究は別の姿を描いています。Walsh らによる2015年のコクランレビュー(24研究・約5800人を分析)は、学校ベースの予防教育プログラムが、子どもの「性被害予防に関する知識」と「自分を守る行動(プロテクティブ・ビヘイビア)」を、教育を受けていない場合よりも確かに高めることを報告しています。

同じレビューでは、こうした教育が子どもに過度な不安や恐怖を生じさせたという証拠は見られませんでした。学んだ知識は、1〜6か月後の時点でも大きく失われずに保たれていたとされます。つまり、適切に行われる安全教育は「こわがらせる」のではなく、子どもに言葉と選択肢を手渡すものだと言えます。

ただしレビューは、被害そのものを減らせたかという長期的な効果までは十分に確かめられていないことも率直に述べています。学校での学びは出発点であり、家庭での日常的な声かけと組み合わさってはじめて力を発揮する、と受けとめるのが現実的です。

プライベートゾーンと「正しい名前」

日本では、内閣府と文部科学省が進める「生命(いのち)の安全教育」が、発達段階に応じた教材を公開しています。その中核にあるのが「プライベートゾーン(プライベートパーツ)」という考え方です。水着で隠れる部分などを、他人が勝手に見たり触れたりしてはいけない「自分だけの大切な場所」として、やさしい言葉で伝えます。

海外の安全教育では、体の部位を俗称ではなく解剖学的に正しい名前で教えることがすすめられています。正しい言葉を持つことで、子どもは「ここはふつうに話してよい場所なのだ」と理解し、もし困ったことが起きたときに大人へ具体的に伝えられるようになるためです。ユネスコらがまとめた国際的なセクシュアリティ教育ガイダンスも、年齢に合わせて体や境界について学ぶことを、人権と尊厳にもとづく前向きな学びとして位置づけています。

伝えるときの空気感も大切です。深刻な顔で一度だけ話すより、お風呂や着替えの場面で「ここは自分だけの場所だね」と軽やかに、繰り返し触れていくほうが、子どもには無理なく届きます。

「いやと言う・逃げる・話す」と、加害は身近に多いという事実

安全教育の実践的な核は、「いやと言う・逃げる・信頼できる大人に話す」という、子ども自身がとれる行動です。たとえ相手が大人でも、いやな触られ方をされたら「いや」と言ってよいこと、その場を離れてよいこと、そして必ず誰かに話してよいことを、ふだんから伝えておきます。

ここで静かに、しかし正確に共有しておきたい事実があります。子どもへの性被害の多くは、見知らぬ不審者ではなく、子どもが知っている身近な人によって起こります。米国RAINNのまとめでは、加害者を被害児が知っていた割合は約9割にのぼり、見知らぬ人は少数です。「知らない人に気をつけて」だけでは守りきれないからこそ、相手が誰であっても自分の感覚を信じてよい、という土台が大切になります。

だからこそ、信頼できる大人を子どもと一緒に複数決めておくとよいでしょう。「もし困ったら、この人たちには何を話してもいいし、必ず信じてもらえる」と分かっていることが、子どもが声をあげる助けになります。話してくれたときに責めずに受けとめる大人の姿勢が、安全教育の最後の、そして最も重要な部分です。

今日からできること

  • お風呂や着替えのときに「ここは自分だけの大切な場所だね」と軽く触れ、体の部位を正しい名前でさらりと使ってみる。
  • 「いやな触られ方をされたら、相手が誰でも、いやと言って・逃げて・話していいよ」と、ふだんの会話の中で繰り返し伝える。
  • 困ったときに話せる「信頼できる大人」を子どもと一緒に3人ほど決め、何を話しても責めずに信じる、と約束しておく。

参考にした研究

各研究について、日本語の解説記事と、原典(英語論文)を探せる Google Scholar 検索へのリンクを掲載しています。

関連する用語解説

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