昼寝はいつまで必要? — 記憶を助ける効果と、夜の眠りとのトレードオフ

投稿日 2026-08-22 ・ 更新日 2026-08-22 ・ 約8分で読めます

「保育園のお昼寝のせいで夜寝ない」「そろそろ昼寝はやめるべき?」——昼寝をめぐる悩みには、実は正反対の方向を向いた2つのエビデンスがあります。昼寝は午前に覚えたことの定着を助ける一方で、2歳を過ぎると夜の寝つきを遅らせ、夜間の睡眠を削る傾向がある。このトレードオフをどう考えればよいのかを、保育室で行われた実験と、日本の保育所保育指針の記述を交えて整理します。

昼の光が差し込む部屋で、2人の子どもがふとんに並んで眠っているイラスト

昼寝は記憶を助ける — 27研究のメタ分析

2025年に発表されたシステマティックレビューとメタ分析(Souabni et al., 2025)は、幼い子どもの昼寝と記憶の関係を調べた研究を集め、32本を系統的に整理し、うち27本のデータを統合しました。結果は、昼寝が陳述記憶——覚えた内容をあとから思い出せるかどうか——を高める方向にはたらく、というものでした。効果量は Hedges' g = 0.35 で、統計的には「小さめ」の効果です。

ただし年齢層で分けると景色が変わります。就学前(おおむね3〜5歳)の子どもに限ると効果量は g = 0.60 まで大きくなり、「中程度」の水準に達しました。著者らは、この年代では計画的な昼寝が新しいことを覚える助けになりうる、と結論づけています。

ここで気をつけたいのは、この研究が示しているのは「昼寝をすると賢くなる」ではない、という点です。測られているのは、その日の午前に覚えたことがどれだけ残っているか。昼寝は新しい能力を足すのではなく、いま入れたものを定着させる働きをしている、と読むのが正確です。

保育室で実際に試した実験

マサチューセッツ大学のカーズィエルら(Kurdziel, Duclos, & Spencer, 2013)は、実験室ではなく実際の保育室で検証しました。40人あまりの就学前の子どもに、午前中、グリッド状に並んだ絵カードの位置を覚える課題をやってもらいます。そのあと、いつもどおり昼寝をする日と、起きて過ごす日をつくり、午後に「どこにあったか」を答えてもらいました。

昼寝をした日は覚えた内容がよく保たれ、昼寝をしなかった日ははっきりと忘却が進んでいました。さらに重要なのは、この差が翌日(24時間後)にも残っていたことです。脳波を測った分析では、睡眠紡錘波(スリープ・スピンドル)と呼ばれる特徴的な波の密度が高い子ほど、記憶の保持が良好でした。

そしてもう一つ、保育園の午睡をめぐる議論に直接効いてくる所見があります。この昼寝の恩恵は、普段から昼寝をしている子でとくに大きく、しかも昼寝を取り上げられた日の損失は、その夜の睡眠では取り戻せませんでした。「夜たっぷり寝るから昼寝はいらない」という説明が、少なくとも記憶の面では成り立たなかったのです。

それでも2歳を過ぎると、夜の眠りを削る

一方で、正反対の方向を向いた知見があります。ソープら(Thorpe et al., 2015)は、0〜5歳の昼寝を扱った研究26本を系統的にレビューしました。もっとも一貫していた所見は、昼寝が「寝つきの遅さ」「夜間睡眠時間の短さ」「夜の睡眠の質の低さ」と結びついているというもので、その傾向は2歳以降でとくに強く見られました。認知・行動・健康への影響については、研究ごとに結果がバラバラでした。

このレビューには重要な限界があります。含まれた26本はすべて観察研究で、著者ら自身がエビデンスの質を GRADE 評価で「低」と判定しています。つまり「昼寝をしたから夜眠れなくなった」のか、「もともと夜あまり眠らない子が昼に眠っている」のかは、この研究群からは決められません。著者らの推奨も控えめで、寝つきに困っている就学前の子については、まず昼寝の様子を確認してみるとよい、という形になっています。

記憶にはプラス、夜の睡眠にはマイナス。この2つは矛盾しているようで、実は両立します。どちらが優勢になるかは年齢と個人差しだいで、「何歳でやめるべき」という一律の答えは、いまの研究からは出てきません。実用的な判断材料になるのは年齢よりも、目の前の子の夜の眠りがどうなっているかです。昼寝が必要な子は、放っておいても眠ります。眠くない子を寝かせようとして布団の上で30分すごす——それが夜の入眠を後ろにずらしているなら、見直しどきかもしれません。

日本の保育園の午睡 — 指針は「一律にしない」

保育園のお昼寝について、国の基準はどうなっているのでしょうか。保育所保育指針(平成29年厚生労働省告示第117号)には、午睡について次のように書かれています。「午睡は生活のリズムを構成する重要な要素であり、安心して眠ることのできる安全な睡眠環境を確保するとともに、在園時間が異なることや、睡眠時間は子どもの発達の状況や個人によって差があることから、一律とならないよう配慮すること」。

注目したいのは「一律とならないよう配慮すること」という一文です。国の指針じたいが、全員を同じ時間だけ寝かせることを求めていません。5歳児クラスで午睡をなくしたり短くしたりする園があるのも、就学に向けた生活リズムづくりとして、この配慮の範囲で行われているものです。

ですから家庭でできるのは、「うちの子は夜どう眠れているか」を園に伝えることです。連絡帳や送り迎えのときに、寝つくまでにかかる時間や就寝時刻を共有しておくと、園の側も個別の配慮を検討しやすくなります。園と家庭のどちらか一方だけでは、その子にとっての適量は見えません。

親の仮眠 — NASAが調べた26分

昼寝の話は子どもだけのものではありません。ローズカインドら(Rosekind et al., 1995)が NASA で行った研究では、長距離国際線を飛ぶボーイング747のパイロット21名を対象に、一部の乗員に巡航中の計画的な仮眠の機会を与えました。実際に眠った時間は平均26分ほどです。仮眠を取ったグループは、取らなかったグループと比べて、課題の成績が34%、脳波でみた生理的な覚醒度が54%良好でした。

この有名な数字には、押さえておきたい注釈があります。34%・54%という改善は「休んだ人が絶好調になった」という意味ではなく、「長時間の夜間飛行で疲れ続けた対照群と比べて」の差だということです。仮眠は睡眠不足を帳消しにする魔法ではなく、消耗の進行をゆるめるもの、と考えるほうが実態に近いでしょう。

それでも、子育て中の親にとって短い仮眠は現実的なセルフケアです。一般に20〜30分程度の短い仮眠は夜の睡眠を妨げにくく、逆に1時間を超える仮眠や夕方の仮眠は夜に響きやすいとされています。子どもが昼寝をしているあいだに家事を片づけたい気持ちはよくわかりますが、週に何度かは一緒に横になる日があってもよいと思います。

この研究をどう読むか

この記事で紹介した2つの方向の知見は、エビデンスの強さが同じではありません。記憶への効果を示す研究は、昼寝あり・なしを実際につくって比べた介入研究が中心で、比較的しっかりしています。一方、夜の睡眠への悪影響を示す研究はすべて観察研究で、著者ら自身が質を「低」と評価しています。「昼寝は記憶にいい」のほうが、「昼寝は夜の睡眠を削る」よりも確からしい、というのが正直なところです。

効果の大きさも冷静に見ておきたいところです。就学前で g = 0.60 は中程度で、確かに無視できませんが、テストの点数が跳ね上がるような話ではありません。そして測られているのは主に「その日覚えたことがどれだけ残るか」であって、数年後の学力ではありません。昼寝をさせたから将来の成績が上がる、という主張を支える証拠は今のところありません。

結局のところ、判断のよりどころは一般論ではなく、目の前の子の夜の眠りです。夜しっかり眠れていて日中も機嫌よく過ごせているなら、昼寝の有無をあまり気に病む必要はありません。逆に寝つきが遅くなっている、朝がつらそうだ、というサインがあるなら、昼寝の長さと時間帯を先に見直してみる。研究が支えてくれるのは、そのくらいの粒度の判断です。

今日からできること

  • 昼寝をやめるかどうかは「年齢」ではなく「夜の眠り」で判断する。寝つくのに30分以上かかる、就寝時刻が後ろにずれてきた——そんなときは昼寝を短めに、そして早い時間に切り上げてみます。
  • 普段から昼寝をしている子の昼寝を、いきなりゼロにしない。研究では、昼寝を取り上げられた日の記憶の損失は、その夜の睡眠では取り戻せませんでした。減らすなら少しずつが安全です。
  • 家での夜の寝つきや就寝時刻を、連絡帳などで園に伝える。保育所保育指針じたいが「一律とならないよう配慮すること」と定めているので、個別の相談をしてよい領域です。
  • 親自身の仮眠は20〜30分まで、夕方は避ける。子どもが昼寝をしている時間に、週に何度かは一緒に横になる日をつくっておくと消耗が違います。

参考にした研究

各研究について、日本語の解説記事と、原典(英語論文)を探せる Google Scholar 検索へのリンクを掲載しています。

関連する用語解説

本記事は子育て世代向けの一般的な情報提供を目的としたものであり、診断・治療・個別の専門的助言を 提供するものではありません。お子さんの発達・健康・心理に関する個別の判断が必要な場合は、 小児科医・心療内科医・臨床心理士・学校・自治体の相談窓口など、専門機関にご相談ください。

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